大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2620号 判決 1976年10月19日

控訴人

田中友子(仮名)

控訴人

大島一男(仮名)

右控訴人ら訴訟代理人

中島万六

被控訴人

田中武志(仮名)

右訴訟代理人

木嶋日出夫

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人と控訴人田中友子とを離婚する。

被控訴人、控訴人田中友子間の長女田中春子(昭和四六年三月一七日生れ)の親権者を田中友子と定める。

控訴人らは連帯して被控訴人に対し二〇〇万円を支払え。

被控訴人の控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その七を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴人ら訴訟代理人(以下、「控訴代理人」という。)は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。<以下省略>

理由

一<証拠>によれば、被控訴人と控訴人友子とは昭和三九年三月六日結婚し、同年四月一三日婚姻届出をした夫婦であり、控訴人友子は昭和四六年三月一七日被控訴人との間の長女春子を分娩したことが認められる。

<証拠>を総合すると、 1被控訴人と控訴人友人は父同志が兄弟に当る従兄妹夫婦であり、被控訴人は松本○○株式会社(昭和四九年七月以降長野県○○株式会社と商号変更。)に勤務していたが、出勤日には午前六時頃、その肩書自宅を出て会社に向い昭和四八年頃蔬菜課長となる前から午後一一時過ぎまで会社で勤務していた。 2これに対して控訴人友子は被控訴人と結婚後その父大川土松の営む米穀商の手伝いをしていたが、右米穀物商の経営が行き詰まつたのを知つてこれを援助するため昭和四四年一二月頃から同四五年七月頃までの間松本市大手五丁目で飲食店「波」を経営し、次で昭和四六年一二月から被控訴人肩書地同人所有家屋階下においてバー「セブンスター」の営業を開始した。 3他方、控訴人一男は露天商を営む者であり、昭和四〇年頃同控訴人の知人であるえどや寿司の主人を通じて同寿司店に米を納めていた前記米穀商勤務の控訴人友人と知り合い、その頃から控訴人友子が被控訴人の妻であることを知つていたが昭和四四年一二月頃から客として「波」に出入するうち控訴人友子の頼みで前叙米穀商の営業資金を融資し、「波」、「セブンスター」の営業にも協力し「セブンスター」開店の際には自己名義の開店披露挨拶状を印刷配布した。 4昭和四五、四六年頃二〇余年被控訴人と交際のある野沢秀治は控訴人友子が控訴人一男らしい男と松本市山辺の温泉街を歩いているところを目撃した。 5控訴人友子は、昭和四七年一月一九日午前零時すぎ被控訴人に対し「実家に子供を預けてあり心配だから帰る。」と言つて、被控訴人の肩書地自宅を出たが同日午前六時二〇分頃被控訴人に控訴人一男と松本市内を歩いているところを発見され、同控訴人との関係を質されるとその日のうちに春子を連れ行方を知らせず被控訴人方を立ち去り、その後同年四月頃までの間被控訴人方階下のバー「セブンスター」に来ることとはあつても、被控訴人から同人方に帰るように促されても、同居を拒み別居を続けて現在に至つている。 6この間控訴人友子は、昭和四七年三月頃佐々木順三から松本市大字里山辺に六畳二間、台所、湯殿付の木造瓦葺平家建家屋一棟を借り受け同家屋に居住していたが、やがてこれを被控訴人につきとめられ、同年四月一六日頃午後四時頃控訴人一男と田中春子とが同家屋の六畳一室に布団を敷いて就寝し控訴人友子も同家屋の六畳別室で布団の上に就寝しているところを被控訴人に発見され、控訴人一男、同友子は田中春子を伴い控訴人一男の運転する自動車で立ち去り、間もなく佐々木順三との家屋賃貸借契約を打ち切つた。 7野沢秀治は、昭和四七年五月頃長野県営野球場でプロ野球の試合のあつたとき同所で控訴人友子が控訴人一男の飲食品販売を手伝つているのを目撃した。 8被控訴人の姉西山えみ子は、昭和四八年四月頃松本市城山に花見に行つた際たまたま控訴人一男を手伝つて公園内に花見客相手のテント張り飲食店を出していた控訴人友人に会い互いにビールを飲みながら話しあつたが、その際控訴人友子は、田中春子に控訴人一男をパパと呼ばせ、同控訴人もよくしてくれているから、被控訴人にもあきらめてほしいと言つた。 9その後被控訴人は控訴人らを相手方として家庭裁判所に離婚等の調停を申立てたが、その席上控訴人友人は離婚のやむをえないことは認め、ただ慰謝料の支払いを拒否し、また控訴人一男は控訴人文子との不貞行為のあることは認めながら、不貞の相手は自分一人ではないとして同様慰謝料の支払いを拒否した。以上の事実が認められ、これらの事実を総合すると、控訴人友子と控訴人一男との間にはおそくとも昭和四七年三、四月頃には情交関係があり、それがその後も継続していたことが推認される。原審における控訴人友子、同一男、当審証人石井秋子の各供述中右認定とそぐわない控訴人友子が佐々木順三から借り受けた家にバー「セブンスター」のホステスを居住させていて昭和四七年四月一六日には右ホステスから控訴人友子、同一男が招待を受けて同家に遊びに行き酔つて寝ていたものである旨の部分及び前記認定に反する部分は前記各証拠に対比して採用し難くほかに右認定を動かすだけの証拠はない。さすれば、控訴人友人には不貞行為があり、それにも拘らず被控訴人との婚姻の継続を相当と認めるべき特別の事情も存しないから、被控訴人の本件離婚請求は正当であり、判示冒頭の事実に前顕甲第一号証、原審における被控訴人、控訴人友子の各供述をあわせると、被控訴人は昭和一〇年六月二九日生れ、控訴人友子は昭和一六年二月二日生れであり、両人間の長女春子は前記のとおり昭和四六年三月一七日生れで未だ幼少であり、被控訴人と控訴人文子との別居後は母である控訴人文子において養育していることが認められるので、和子の親権者には控訴人文子を指定するのが相当である。

前叙認定事実によれば、控訴人一男は当初から控訴人友子が被控訴人の妻であることを知つていたのであるから、控訴人一男と同友子とは前認定の不貞行為により共同して被控訴人の控訴人友子に対し夫として有する権利を違法に侵害したものというべく、これによる被控訴人の精神的苦痛に対する慰謝料は、さきに認定した被控訴人、各控訴人の年令、職業、被控訴人友子の婚姻継続の期間<証拠判断略>、その他一切の事情を総合すると二〇〇万円を相当とするものと認められるので、控訴人両名を共同不法行為者として被控訴人に対し連帯して慰謝料三〇〇万円支払を求める被控訴人の本件請求は二〇〇万円の連帯支払を求める限度において正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきである。

二よつて、以上と結論を異にする原判決は変更を免れないから、民訴法三八四条一項、三八六条に従い原判決中二〇〇万円を超えて金員請求を認容した部分を取り消し、その余の部分に対する控訴を棄却すべく、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(吉岡進 園部秀信 兼子徹夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例